北イタリア ピエモンテの田舎で暮らして

アルトピエモンテ ノヴァーラ県在住ワインインポーター

メトド・アンチェストラーレ製法(Metodo Ancestrale)について


アルト・ピエモンテのワインのイベントでは、3つのマスタークラスを受講しました。
講習会場であるノヴァーラの古城の地下空間に行く前に、時間が少しあったので、
テイスティングのスタンドが並ぶ試飲会場に入ると、
ノヴァーラ県のワイナリーのエレオノーラに声をかけられました。

”今回、伝統から離れてどんなものができるか、ゲームで限定本数を造ってみたの。試飲していって。”

これは、"indisciplinata"(従来の製造から距離を置いている、規律がないワイン)だといって、グラスに注ぎながら、エレオノーラが説明をしてくれました。

”これは、お料理と組み合わせるために造ったワインではなく、日常生活の中での特別な気分の時というライフスタイルと組み合わせて造ってみたワインなのよ。”

それは、品種ウヴァ・ラーラのメトド・アンチェストラーレ製法(Metodo Ancestrale)のワインでした。

気軽な微発泡のワインであり、それは、お祝いのパーティなどの特別な機会でなく、ごくありふれた日常の場面でのちょっとしたスペシャルな気分との組み合わせだというのです。

”日常生活の中にも、必ずどこかスペシャルな気分の瞬間があるはずだから。”

Ancestrale

「先祖伝来の方法」と呼ばれるこのスパークリングワイン製造法は、かつてシャンパーニュ地方で用いられていたものでした。
ワイン醸造後に残った残留糖分のおかげで、ワインを瓶の中で自然に再発酵させることによって製造されていたという伝統があった時代の方法です。
数年前から、それを現代的な基準に合わせて生産され流行し多く見かけるようになりました。

*この先祖伝来の方法と呼ばれる醸造法(Metodo Ancestrale)について
果皮に存在する土着の酵母を保存するために、ブドウを優しく圧搾し温度管理されたステンレス・タンクで発酵がさせます。

その後、温度を下げて発酵を遅らせ、最終的に発酵を止めることによって、発酵を終えていないワインには、糖分が残ります。
この残留糖分は、瓶詰め後に糖分や酵母を追加することなく発酵が再開するためです。

発酵の再開は、温度が上昇するを3月か4月まで待つという方式です。
現代では、セラーで望むときに再発酵を開始できるように温度制御が設定されていることが多いです。
このワインは、ブドウの収穫をより早く行い、酸味と飲みやすさを向上させた方法であり、
濾過されず濁りを持っているワインで微発泡で若く爽やかで飲みやすく、かすかにブリオッシュのようなイーストの香りで、酸味と風味が際立って心地よく感じられます。

2018年頃から、流行となり様々な試飲会で多く見かけるようになり、私も数多くのメトド・アンチェストラーレ製法のワインを試飲しました。
最近では、見かけることが以前よりは、少なくなってきていて、従来のワインに戻りつつあります。

「先祖伝来の方法」、この言葉の意味をよく考えてみると興味深いです。

それは、ブドウからワインへの変化が何に依存しているのかわからなかった時代があり、
収穫を終えて醸造されたブドウが、秋の寒さのために発酵が妨げられ、ワインが甘いままであることがよくあったということでしょう。

そして、春になって暖かくなり、その間に瓶詰めされたワインの酵母が目を覚ますと、
瓶内で発泡が始まったのです。

Ancestrale2


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Instagramにも書いたように、興味深い内容、いろいろな生産者さんの言葉で様々なことを考え、マスタークラスでも、試飲会場でもノートを取る手が止まらないほど、地元のワインに集中した3日間でした。

今回、アルトピエモンテの10個のDOC,DOCGワインをすべて試飲しています。

スイスの国境が近づく
Valli Ossolane DOC.

セージア川左岸 ノヴァーラ県
Boca DOC.
Ghemme DOCG
Colline Novaresi DOC.
Sizzano DOC
Fara DOC


セージア川右岸 ヴェルチェッリ県、ビエッラ県
Lessona DOC.
Bramaterra DOC.
Coste della Sesia DOC.
Gattinara DOCG.


ピエモンテ州を流れるこのセージア川は、アルプス、モンテ・ローザ山塊の氷河に源流があり、 ポー川の左岸に合流します。

今後、これらのDOC,DOCGについて、ひとつずつ全て解説していく予定です。

それでは、最後に今回の試飲会での楽しいひと時のショート動画です。




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ブログの更新が遅くなってしまっていてすみませんでした。
その後の水田、ワインのことなど書きたいことたくさんあります。

私は、2019年にヴェネト州からメトド・アンチェストラーレのワインを2種類輸入しようと思った時期がありました。飲みやすく大量に消費されやすい味わいで王冠のワインであり、一度ワインを開けたら、メトド・クラシコ・スプマンテと違い、ワインが変質しないように保存するのが難しいので1本飲んでしまうようになること、アルコール度数も13%弱あったことから、購入してくださるお客様の健康面を考え保留にしていました。

その後、パンデミック時期となり、その倉庫のスペースは、地元アルトピエモンテのゲンメのワイナリーから品種エルバルーチェとネッビオーロの2種類のメトド・クラシ・スプマンテの入荷となりました。
初めて作成したリール(ショート動画)は、そのゲンメのスプマンテの宣伝でした。



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アルト・ピエモンテとカナヴェーゼのエルバルーチェの出会い


アルト・ピエモンテのワインに特化した最大のイベント、テイスト・アルト・ピエモンテがノヴァーラの古城(Castello Visconteo Sforzesco di Novara)で開催されていて、月曜日(5月13日)が最終日です。

アルトピエモンテのDOC,DOCGであるBoca DOC, Bramaterra DOC, Colline Novaresi DOC, Coste della Sesia DOC, Fara DOC, Gattinara DOCG, Ghemme DOCG, Lessona DOC, Sizzano DOC,
Valli Ossolane DOC
の最新ヴィンテージを試飲するために参加してきました。

私は、初日に2つのマスタークラスを受講しました。
そのうちの1つは、白ワイン(エルバルーチェ)がテーマとなったものです。

テロワールの比較:アルト・ピエモンテのエルバルーチェとカナヴェーゼのエルバルーチェの出会い」というタイトルで、5種類のカナヴェ―ゼのエルバルーチェ(Canavese DOC Bianco, Caluso DOCG)
5種類のアルトピエモンテのワイン(Colline Novaresi DOC Bianco)を試飲しました。

masterclass


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“Erbaluce di Caluso DOCG” または“ Caluso DOCG” のワインの法律の第2条にエルバルーチェ・ディ・カルーゾ'または'カルーゾ'の原産地呼称統制および保証ワインは、品種エルバルーチェのみで構成されることが記載されています。

続いて第3条に“エルバルーチェ・ディ・カルーゾ”または、”カルーゾ”のブドウの生産地について下記のように定められています。

トリノ県
Aglie, Azeglio, Bairo, Barone, Bollengo, Borgomasino, Burolo, Caluso,
Candia Canavese, Caravino, Cossano Canavese, Cuceglio, Ivrea, Maglione, Mazze,
Mercenasco, Montalenghe, Orio Canavese, Palazzo Canavese, Parella, Perosa Canavese,
Piverone, Romano Canavese, San Giorgio Canavese, San Martino Canavese, Scarmagno,
Settimo Rottaro, Strambino, Vestigne, Vialfre, Villareggia, Vische

ヴェルチェッリ県
Moncrivello

ビエッラ県
Roppolo, Viverone, Zimone

これを見るとわかるように、ワイン名と同じ自治体(Caluso)のあるトリノ県がほとんどですが、生産地域は、比較的広い範囲でアルトピエモンテ地域であるヴェルチェッリ県、ビエッラ県も存在しています。

このためイタリアでも誤った記述が時々見かけられます。
『エルバルーチェの栽培地域は、カナヴェ―ゼの丘を中心としたトリノ県とごく一部のヴェルチェッレーゼ(ヴェルチェッリ県)とビエッレーゼ(ビエッラ県)地区に限定されている。』

実際には、ピエモンテ北部の品種エルバルーチェは、ピエモンテに4つの原産地呼称を持っていて、トリノ県だけでなく、冷涼なアルトピエモンテ地域(ビエッラ県、ヴェルチェッリ県、ノヴァーラ県、ヴェルバノ=クージオ=オッソラ県)でも栽培されている品種です。

* Erbaluce di Caluso またはCaluso DOCG(エルバルーチェ・ディ・カルーゾまたはカルーゾDOCG)
*Canavese DOC Bianco spumante, Canavese DOC Bianco(カナヴェーゼ DOC ビアンコ スプマンテ、カナヴェ―ゼ ビアンコ)
* Coste della Sesia DOC Bianco (コステ・デッラ・セージア DOC ビアンコ )
*Colline Novaresi DOC Bianco (コッリーネ・ノヴァレージDOC ビアンコ)


このうち、唯一、DOCGのエルバルーチェ・ディ・カルーゾだけがラベルにエルバルーチェの名を使用できるのです。

様々な岩石が崩壊してできたモレーンの地層に由来し様々な要素が豊富に含まれているカナヴェ―ゼの土壌、
そしてピエモンテ州の最北部に位置するアルト・ピエモンテ、特にコッリーネ・ノヴァレージは、アルプスの氷河に由来した土壌(第四紀の大氷河がこの地域の形態学的特徴を形成しています。)といった土壌の違い、またそれだけでなく生産者の特徴によりそれぞれ味わいが異なっています。

また興味深かったのは、雨が多くブドウの状態が決して良くなかった2023年のコッリーネ・ノヴァレージのエルバルーチェのワインの中で、ある生産者のワインは、気温が高く乾燥した2022年よりも、際立ってノヴァーラの丘の特徴が出ていたことでした。

2023年は難しい年であったけれど(私は、収穫でブドウの状態を知っているだけに2023は、輸入を予定していないですが)従来の冷涼な土地のノヴァーラの伝統的な味わいに近く、ああそういえば、これがエルバルーチェだったと、急に思い出したあの日の風景が見えたような気がしました。

ゲンメのワイナリーのアントネッロさんと丘を歩いた日に見たエルバルーチェのブドウ畑、フクロウが棲んでいる栗の木、まるで白ブドウをローストしたようにオレンジ色のニュアンスのあるエルバルーチェのブドウ・・・

マスタークラスを受講した時の約20秒のショート動画です。




なぜか昨日の試飲会とまったく同じ服装とスカーフですが、
こちらは、3年半前のパンデミック時期にスマホで自撮りしたYouTubeです。
【ピエモンテ州北部の地場品種 エルバルーチェについて】




エルバルーチェは、緑色のニュアンスを持った麦わら色。
アルプスの山の花やサフランなどの繊細な香りとフレッシュな風味、綺麗な酸が広がり、前菜や魚料理、繊細なリゾットによく合います。

私の住んでいる地域では、このワインを使ったセイヨウイラクサ(ネトル)のリゾット、アスパラガスのリゾットが美味しい季節です。
一緒に合わせるワインは、リゾットにも使った同じエルバルーチェのワイン。

白ワインの他、スパークリングワイン、そして糖度を高めたパッシートワインがあります。
パッシートは色が濃く輝きを持った黄金色となり、エルバルーチェのオレンジ色がかった果皮に近い色彩を持ちます。ほのか甘くビロードのような風味がありピエモンテのヘーゼルナッツケーキにぴったりです。

2月に開催した銀座のワイン会で、パッシートワインを選んだ方がピエモンテ産IGPのヘーゼルナッツのタルトを追加オーダーしてアルトピエモンテの味を楽しまれていました。

銀座のワイン会の時のヘーゼルナッツのタルトです。
ワイン会を担当してくれたソムリエさんがイタリアのレシピで作り、アルトピエモンテの味を再現してくれました 

Torta di nocciole Piemonte IGP

ヘーゼルナッツのタルト


ブログを書いてたらすっかり夜ふかしになってしまいました。
あと8時間後には、再びノヴァーラの古城に行き、最終日のイベントに参加します。
今度は、ネッビオーロとヴェスポリーナの試飲です。

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アルプス最高峰の水路から来たノヴァーラの水田



今日の前回のブログで紹介した水没した田んぼに種を播く方式についてです。
これは、灌漑を行う古来の農学技術で2019年以前は、ほとんどがこの方式でした。


水田に種を播いた後、水中の種子は約8日後に下方に根が伸び、上方に茎を伸ばしていきますが、気温が低く、今年は、約10日間かかっています。

この時点で水田の水を抜き、稲を根付かせます。
そして、その後、水田に再び水を入れます。

朝の散策中、ちょうど水を抜いた水田に出会いました。
ここは、5月5日のブログの水のある風景の田んぼです。

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これは、品種がインディカ米に属するお米です。
下に根が、そして上に茎がでてきています。

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この農場では、このタイミングでこれから肥料を施します。
(農場によって施肥時期やタイミングが異なり一律で同じやり方ではありません。)
肥料の入った袋は、1200Kg

施肥1

袋の下部をナイフで切り、肥料を移します。
配合や成分は、田んぼの土壌によって差があります。
こちらは、ミネラル複合コンポスト
窒素 (N)の合計が22%【アンモニウム態窒素 (NH₄-N)20,0 %、硝酸性窒素 (NO₃-N)2%】
その他、水に溶ける無水リン酸 (P₂O₅)、水に溶ける酸化カリウム(K₂O)が配合されています。

この農場では、計算すると区画によって異なりますが、1ヘクタールあたり約220Kg

施肥2

飛ばすように肥料が施されているのが見えますか。
今日は、肥料ですが、種播きも同様に行っています。
現在では、GPS衛星システムを使って行うため、より精度が高く、種子、肥料の無駄が少なくなっています。

施肥3

この肥料は、硝化抑制剤 (3,4 DMPP )を配合しているので、土壌中や大気中への窒素流出を抑えて、最適な窒素効率にし、施肥効率を高めています。


窒素を土壌に保持して、土壌や空気中、水に溶出するのを防ぐことで、窒素の分配効率が高まり、実際の必要量を超えない量の施用が可能になるので、質的にも量的にも高い収量を維持できるということ。

アンモニア性窒素から硝酸塩への変換が最大で約3ヶ月遅くなります。
(農場の土壌、気候などの条件で変わってきますが、過去に訪問した4つのノヴァーラの農場経営者によると2~3ヶ月と回答していました。)

従来の窒素肥料を使用すると、窒素の最大50%が溶出や排出によって失われる可能性があります。

農場にかかる経費の中でも、種籾や土地の支払い、トラクターなどの機械だけでなく、大きな部分を占めるのが莫大な水、肥料、農薬などの農業資材があります。

肥料が水田による溶出や排出によって失われるのを抑えて、最適な量だけを使用できることで経費を抑えることができます。
また、それだけでなくN₂Oとしても知られる温室効果ガスである亜酸化窒素の大気中への排出を73%削減することができるというデータもあります。


今日では、どの品種でも、種を播いてから収穫までの期間を正確に把握されています。

通常、晩生の品種であっても、雨やこのピエモンテ州北部の秋の気温や天候不順のリスクを伴う晩秋の収穫を避けるために、播種は5月2日までに行われていましたが
今年の春の気温の低下で、遅れています。

朝の水田散策後、自宅に向かうと、稲作研究所の名前が入った種籾を積んだトラクターとすれ違いました。今日、5月10日に種を播く農場もあります。

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水田内の水は、稲の発育に必要な温度調節機能を持っています。

田んぼの湛水に使用される水は、その大部分がアルプスに由来する河川なので、
用水路では、4月の気温は10度以下になることもあるとされていますが、

今年の4月、朝の気温が6℃以下の日も続き、用水路の温度は、さらに低くなっていて、種を播く時期を遅らせる選択をしたところも多いです。


水田の水は、ドラ・バルテア川(ポー河の主要なアルプス支流のひとつの河川)から来ています。
アルプスの最高峰(グラン・パラディーゾ、モンブラン、マッターホルン、モンテ・ローザ)が源で多くのアルプスの水路から支流を引いています。

そうです。前回のブログの水田を背景に見えた山々です!


稲作についていろいろと話を聞くのは、朝の散策中の水田の前だけではないです。
稲作農場で働く人々と町のバールでのアペリティーボで出会い、
話の続きをいろいろと教えてもらっています。

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*ブログでは、見た風景の他に稲作農場経営者の視察を通じて、また稲作農場訪問取材で農学博士から、また稲作関係の新聞などの文献を参考にしていて、ブログですが、私個人の見解でなく情報として書いています。
知識としてご参考になさっていただけたら幸いです。

稲作の記事が続いてしまいました。
次回は、アルトピエモンテの白ワイン、品種エルバルーチェについてです。
皆さん、良い週末を。

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Profile

RIE

北イタリアピエモンテ州ノヴァーラ県在住。
プロフィール画像は、2023年秋、稲作の品種と農業資材視察時でノヴァーラ県の水田の前です!
イタリア、ワイン、郷土料理、海外が好きなすべての皆さんのために。
そして欧州の稲作などの農業研究に関心がある方にも。

株式会社Wine・Art代表
Sommelier(AIS PIEMONTE)
Master di analisi sensoriale del vino(AIS ROMA)
wineartpiemonte.com
ワインなどのオンラインショップ
→ shopping-wineart.com
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